Antico Cafe JIRO

















酔い 油彩

絵 宮崎 次郎
詩 野村喜和夫
薄明のサウダージ 11

空中の人は考へる

空中の人は考へる
なぜいま自分は
ふわつと浮いてゐるのか
ほんたうは千鳥足で
まだ地上をあるいてゐるのに
酩酊のせいで
ふわつと浮いてゐる
やうな気がしてゐるだけではないか
いやちがふ
自分は酔つて車に轢かれ
正真正銘いま昇天しつつあるのかもしれない
まさかまさか
空中の人は考へる
真相はどうあれ
ふわつと浮いている
このふわつ
が大事
と思ひたい
水めく塔のゆらぎのやうな
胎の子の夢のうつろぎのやうな
ふわつ
あらゆる悲哀を町に残して
花の繊細さのまま
ほとんどもう気化してしまひさうなのだ
生きるつてアロマだつたんだ
といふたまゆらの
ふわつ
致死量の希望のやうな
ふわつ
あたりはもうどんどん薄明になつて
身を焦がすほどの
ふわつ
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宮崎次郎