花 油彩
絵 宮崎 次郎
詩 野村喜和夫
薄明のサウダージ 10
この花
この花
アネモネだらうか
鮮血を練り込んだやうな
そしておまへ
さへずりを忘れた鳥
むかしはおまえたち
花鳥といつて
うたの題材だつた
しかしいまは誰もおまへたちのことなんか
うたはない
だから私は
おまへたちをまるごと
過去に送り返してやらうと思ふ
さうすればおまへたちの
出番もあらうといふものだ
いや
さへずりを忘れた鳥
おまへがこの花をくちばしに銜へて
薄明の空を飛んでゆけ
するとそのまま
過去だらう
薄明には時間が錯誤しやすいからね
ところでこの花
どこで摘んだと思ふ
ほら
きのふあの辻のアパートで殺された
かなしい女の
ゆびとゆびのあひだからさ
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