路地 油彩
絵 宮崎 次郎
詩 野村喜和夫
薄明のサウダージ 4
(
ひそひそ
)
ひそひそ
ひそひそひそ
この路地で?
さう、この路地で。
でも、信じられないなあ。
狭すぎるしね。
いや、空間の大きい小さいではない。
人が通ることができればあれも通れる。
血も流れた?
さあ、だうだか。
仮にもし血が音楽でできてゐるとしたら、血は流れたといへる。
どんな音楽?
フエルマータめく血小板のあひだを、ヘモグロビンが狂ほしく咆哮するのだ。吹いてみやうか?
といふことは、おまへもあれのひとりなのか?
あれそのものではないが、あれの影かもしれない。
いや、あれこそが私たちの影でせう。
あれは私たちを通してしかあらはれることができない。
といふか、ほら、薄明ではだれもかれもが影になるんぢやないの?
光もまた老ひるし。
つまらないこと言はないで。
とにかく時間がない。確かめに行かう。
こわいな。
でも、復活してしまつた。
さう、復活してしまつた。
音楽とともに。
影とともに。
ひそひそひそ
ひそひそ
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