シアター 油彩
絵 宮崎 次郎
詩 野村喜和夫
薄明のサウダージ 2
血の色をした ー
血の色をしたゼリー寄せのやうな
薄明の町を私は
さまよひ歩いてゐた
友人が出る芝居に招待されたのだが
劇場の場所がわからない
するとふたりの役者のやうな通行人がやつて来て
ほらここが劇場です
といつて青い小さな扉を指し示す
ので中を覗き込むと同じ血の色をした
ゼリー寄せのやうな町がひろがつてゐるだけ
劇場なんかないではないか
いやありますよ
押し問答のうちに私はその町に入り込んでしまふ
さうしてまたさまよふことになつた
劇場はどこですか
するとふたりの役者のやうな通行人がやつて来て
青い小さな扉を指し示す
ので中を覗き込むとまたも血の色をした
ゼリー寄せのやうな町がひろがつてゐて
これぢやあ埒があかないなあ
と思つた瞬間
消えろ消えろ
なにやら台詞のやうなものがきこえてきた
ほんの自分の出番のときだけ舞台のうへで見得を切つたり
わめいたりそしてとどのつまりは消えてなくなる
え? 誰? シェークスピアみたいないまの台詞
と思つた瞬間
私もまた役者の出で立ちで
月が出た月が出て地には卵黄ラヴソングなどと
わめき始めてゐた
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