Antico Cafe JIRO
















宮崎次郎
 浦和駅から緑の繁る方向へ向かう。県庁や県警本部が立ち並ぶ閑静な一角のビルの最上階に、2ヶ月前に完成した宮崎さんのアトリエがあった。敬愛する建築家の泉幸甫さんによるもので、貝殻を調合した漆喰の壁、錆びを入れた鉄製の間仕切り、アフリカ産のブビンガという硬く重厚な木材でできたキャビネットなど、画家のこだわりに建築家が応えるかたちでひとつひとつの材料が選ばれたという。
 アトリエ空間はかつて暮らしたパリのアパートをイメージ。頭を休めるくつろぎの部屋はずっと昔から憧れる鎌倉の和室を彷彿とさせる。そこに繋がる洗面台は相模湾のブルーを再現するかのようにヴェネチアのガラスタイルで覆った。宮崎さんの絵のテーマは郷愁や憧れを意味する「サウダード」だが、この部屋そのものが過去から未来へと続く画家の憧れを詰め込んだかのようだ。
 「パリではよく芸術家が集まって詩の朗読会を開いていました。あの濃密な時間をいつか自分でも作り出してみたい。そんなことを空想しながら描いています」
 壁には制作中のキャンバスがズラリと並ぶ。それはあたかもどこかで見た風景やいつか見た夢が、画家にそのイメージを膨らませてもらおうと行儀よく並んで待っているかのようだった。


みやざきじろう
1961年埼玉県浦和市生まれ/90年日本大学芸術学部美術学科卒/95年第30回昭和会展昭和会賞受賞/1997年〜1999年文化庁派遣芸術家在外研修員として渡仏/04〜05年本誌「巴里の街角で」連載/日本橋三越などで個展多数。現在無所属

写真・王丹戈(おう たんか)

「月刊美術」2010年 8月号「アトリエビュー」
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宮崎次郎