Antico Cafe JIRO
















画面に塗り込められた心の揺らぎ
レスポワール  宮崎次郎の今回開催される展覧会のタイトル「アトモスフェール」とは、フランス語で雰囲気、空間という意味。そのタイトルの通り、宮崎の絵は不思議な空気感を持っている作品だ。声高にメッセージを叫んでいないのに、その絵には存在感がある。
 「絵には押しつけがましくならない、さりげない気持ちを込めています。その気持ちというのは平和であって欲しいとか、人の痛みをわかって欲しいとかほんのささいなことです。そういったちょっとした願いが塗り込められている僕の絵を見て、買っていった人がその絵と一緒に暮らしている中でその人なりのストーリーを絵の中に見つけて欲しい、というのが僕の希望です。色んな人の寓話が出来るように、一つの絵でお話が完結するような絵を描いています。」
原色ではなく穏やかな色調で描かれた画面は一貫しているが、初期の作品はどこか不安そうな雰囲気が漂っている。特に「根無し草」と題された初期の作品ではうつむき加減の男が少し不気味な存在感を放っている。
 「どの作家もそうだと思うけど、画面に自分を投影することはあると思います。特に若い頃は自意識過剰だったりするし。社会に対して皮肉を込めて描くような感じがあって、少し屈折していたかもしれないです」
「カードゲーム」  1997年から約2年半に渡って、宮崎は文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランスに渡っていた。それ以降もフランスにアトリエを置いた期間があり、日本とフランス、イタリアを行ったり来たりした生活から、自らを投影した作品に「根無し草」というタイトルをつけたのかもしれない。しかし絵の舞台になっているのはフランスの街並でも東京でもない。それはマックス・エルンストやキリコなどのシュールレアリストが描こうとした深層心理の世界に似ている。そして、心象風景を描こうという姿勢は貫いているが、宮崎の絵は少しずつ柔らかい雰囲気を漂わせるようになった。
 今回のごらくギャラリーでの個展では以前、豪華客船にっぽん丸で展示したものを画廊で再現するということで、商船三井が後援になっている。船での展覧会は乗船者しか観ることが出来なかったが、今回は新作も含め約35点が画廊で公開される。
 「2年前に2週間くらい、僕自身がにっぽん丸に乗ってみて、そこで展示をしてみたいとふと思ったんです。そして、たまたまコンシュルジェの人がいたので、展覧会をしてみたいといったらすぐ実現したんです。船の中には普段、絵を観に行かない人もいただろうし、社会性があって僕にとってはいい経験でした。それに船の中にずっといて長いスパンで絵を観てくれるので、絵の中に入るチャンスがあるんです。だから、このにっぽん丸での展覧会は意味のあった展覧会だと思う」
「アリア」  絵の中に引き込まれる理由の一つに、宮崎の絵は昼と夜の境目のような曖昧な時間を持っていることが挙げられる。それは観る人によって、明け方にも夕方にも受け取れる。それこそがその人の心の中の風景であると言えよう。
 「いついつの時間が描かれています、と作家がいうのではなくて、観る人が自由に受け取って欲しい。昼と夜の領域という時間によって心の揺らぎなどを感じてもらえれば、と思っています。画面に描かれている人についても同じで、人物という具象を描いているというよりは人の形を借りて心の揺らぎを描いています」


宮崎次郎プロフィール
1961年 埼玉県生まれ
1995年 第30回昭和会賞受賞
1997年 文化庁派遣芸術家在外研修員として渡仏
2004年 「宮崎次郎画集」を刊行
2005年 にっぽん丸ギャラリーにて個展

宮崎次郎

「月刊ギャラリー」 2006.02 「画廊が期待するアーティスト2006」
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宮崎次郎