薄明のサウダージ 12

薄明の終わり 油彩

絵:宮崎 次郎 / 詩:野村喜和夫

薄明が終はるとき

薄明が終はるとき
私もまた終はる
薄明のあひだずつと
死は私において熟しつつあつたのだ
さうでなければ
いまあなたによつて
不在の私がこんなになつかしく
こんなに逆さになるまで
想起されたりはしないだらう
いやこの馬も不在だし
この街も不在だ
さうでなければ
こんなにも薄明があなたの心を
とらへるはずもあるまい
いま私はといえば
完全な死体として夜の
あるひは昼の側へ
送り込まれてゆく
さやうなら
女を二乗して三倍の私の影に加へたりも
夢のまた夢
さやうなら
冬木の枝のやうな毛細管と
月をまねて輝く
魂といふ名の黄斑と
それらはここに残しておかう
つぎの薄明のとき
あなたがそれらを身にまとうであらうから