
花 油彩
絵:宮崎 次郎 / 詩:野村喜和夫
この花
この花
アネモネだらうか
鮮血を練り込んだやうな
そしておまへ
さへずりを忘れた鳥
むかしはおまえたち
花鳥といつて
うたの題材だつた
しかしいまは誰もおまへたちのことなんか
うたはない
だから私は
おまへたちをまるごと
過去に送り返してやらうと思ふ
さうすればおまへたちの
出番もあらうといふものだ
いや
さへずりを忘れた鳥
おまへがこの花をくちばしに銜へて
薄明の空を飛んでゆけ
するとそのまま
過去だらう
薄明には時間が錯誤しやすいからね
ところでこの花
どこで摘んだと思ふ
ほら
きのふあの辻のアパートで殺された
かなしい女の
ゆびとゆびのあひだからさ