
ゲーム 油彩
絵:宮崎 次郎 / 詩:野村喜和夫
あ、負けちやつた
あ、負けちやつた
卓上は原つぱ、
われわれの勝ち負けが、
廃材のやうに無造作にころがつてゐるよ、
でも、手が読めなかつたなあ、
何かに気をとられてゐるうちに、
べつの何かが忍び込む、薄明ではよくあることさ、
いや、誰の心のなかにも、
わけのわからないものがひそんでゐて、
われわれはそれを相手に右往左往してゐるのに、
それはするりと捕捉を拒み、
あとには不思議な欠落感だけがたゆたふ、
いや、心のなかなんかぢやなく、
いましがた、ほら、たしかにわれわれの背後を、
何かとても大切なものが通り過ぎていつたんぢやないのか、
われわれはゲームにかまけてゐて、
そのことに気づかなかつた、
だから明日、子供たちの病は癒えず、
ひとは微笑みを失ふだらう、
薄明を生きるつて、
参加しないうちから敗北を宿命づけられてゐる賭け、
みたいなものなのね、きつと、
でも、何なの、その、
とても大切なものつて、
それを言葉にできたら、
賭け事なんかしていないよ。