薄明のサウダージ 7

船 油彩

絵:宮崎 次郎 / 詩:野村喜和夫

都市と歳月と眠りと

都市と歳月と眠りと
すべてがそこに積まれてゐる船
すでにして遊星のやうだ
私たちはそこに閉じ込められてゐる
来る日も来る日も
忘却と慰撫の作業
しかし卓上にはカードが
ゲームの途中で放り投げられ
そのへりに
途方に暮れた私たちの顔また顔が並ぶ
遠隔の者はいふ
船はおまへたちの頭のなかに存在するにすぎない
陸に戻りたければ
ゲームに没頭することだ
またべつの遠隔の者はいふ
船はおまへたちを育んできた揺籃そのもの
ただ素直にそれに
運ばれてあることをよろこぶべきだ
しかし船を浮かべている
おそろしく不可知な雲のやうな海
あるひは海のやうな雲の存在については
誰も何も言はない
都市と歳月と眠りと
薄明と貨幣と病ひと
すべてがそこに積まれてゐる船
もうどこに帰りつくといふこともなく
すでにして遊星のやうだ