薄明のサウダージ 6

ふたり 油彩

絵:宮崎 次郎 / 詩:野村喜和夫

遠いオレンジ

遠いオレンジ
さう 遠いオレンジだつた

おぼえて
ゐるだらうか
私たちはそこに連れていかれた
のにちがひなく

それから果実は時と混じりあひ
いまかうして
終わりのない薄明にのぞんでゐる私たち
私たちとは誰だらう
答へはない
遠いオレンジは
遠いオレンジとしかいいやうがない
のと同じだ
ただそこへ私たちは
ふたりとして浮かび上がつてゐる
これ以上の神秘が
あるとも思はれないのだ
私たちつねに
すでにふたり
互ひが互ひの顔を照らし出すやうに
あるひは言葉が
言葉を蔽ひあうそこだけ
蝕となるやうに
ふたり

遠いオレンジ
さう 遠いオレンジだつた