Antico Cafe JIRO

















海(冒険者) 油彩

薄明のサウダージ 1

絵 宮崎 次郎
詩 野村喜和夫
薄明とは ー

薄明とは
空に巨きな
魚が浮かんでゐたりしたらすてきだと思ふこと
ほの赤い空を背に
葉を落とした木が
毛細管のやうな枝をひろげてゐれば
なほいい
私はといへば
もちろん魚に乗り魚を駆って
しかし薄明とは
魚が鳥のやうには飛ばないし
落ちもしない
ただ浮かんでゐるだけ
だから時間といふ形式からも自由なのだ
と思ふこと
ついでに私も自由
かどうかはわからない
月をまねて輝く
魂といふ名の黄斑が
そんな私たちを飽かず眺め下ろしてゐる
やがて全き夜が
あるひは昼が
私にだけ重力についての
ありきたりな真理をもたらすとしても
それまでは
私よ
薄明を遊びつくせ
新連載「薄明のサウダージ」がスタート

 どこか物語がひそんでいそうな寓話的な作品で知られる洋画家・宮崎次郎。懐かしさと寂しさが溶け込んだその作品世界を、画家はポルトガル語で郷愁や哀愁を表す「サウダージ」という言葉で制作のテーマに据えています。

 画家の長年の願いは、近代までのように絵が詩と一体となること。詩人で画家だったアンリ・ミショーのように、あるいは詩人マラルメと画家マネが交友関係のなかで新しい芸術を生み出したように、あるいは詩人・瀧口修造が日本における前衛美術の精神的支柱であったように、いまでは別々のジャンルとして「棲み分け」が進んだ両者を再び統合することはできないだろうかとずっとその方法を模索してきたそうです。個展会場で詩の朗読を続けるのも、詩への限りない憧れと愛情を表してのこと。

 今回、画家の強い希望で、現代日本を代表する詩人・野村喜和夫氏とのコラボレーションが誌面で実現しました。

 画家と詩人がイメージを共有しながら、絵と詩による物語を一回ごとの読み切りで連載していきます。その名も「薄明のサウダージ」。夜と昼の境い目のちょっと不安定な時間に、幻のように目の前にひろがる物語世界を12回の描き下ろしの絵と書き下ろしの詩でお届けします。是非最後までお楽しみください。(編集部)


みやざき・じろう
1961年埼玉県生まれ。90年日本大学芸術学部卒。95年昭和会賞受賞。97年〜99年文化庁派遣芸術家在外研修員として渡仏。04年本誌にて宮崎次郎の「巴里の街角で」連載。個展多数。

のむら・きわお
1951年埼玉県生まれ。早稲田大学卒。明治大学大学院博士課程中退。93年詩集「特性のない陽のもとに」で歴程新鋭賞受賞。00年「風の配分」で高見順賞受賞。03年「ニューインスピレーション」で現代詩花椿賞受賞など。詩集、評論多数。
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宮崎次郎